阪神淡路大震災で10万棟の住宅が倒壊した原因と、その悲劇を生まないための教訓

阪神淡路大震災で10万棟の住宅が倒壊した原因と、その悲劇を生まないための教訓

阪神淡路大震災が多くの被害者を生んでしまった理由のひとつに、木造住宅の倒壊被害があります。これは、今から家を建てようと思っている人にとっては、非常に身近な問題です。
今回は、地震が家屋に与える衝撃、その被害状況を確認し、なぜあのように大きな被害につながってしまったのか、被害を最小限に抑えるためにはどうしたらいいかということについて考えてみたいと思います。

阪神淡路大震災を振り返る

1995年1月17日午前5時46分、淡路島北部で、深さ16kmを震源とするマグニチュード7.2の地震が発生しました。神戸と洲本で震度6、豊岡・彦根・京都で震度 5、大阪・姫路・和歌山などで震度4が観測され、発生直後に行った気象庁地震機動観測斑による被害状況調査の結果、神戸市の一部の地域等においては、震度7であったことがわかっています。
「阪神淡路大震災」と政府が命名したこの震災では死者が6,435名、行方不明者が2名、負傷者が43,792名と記録されています。これは、戦後に発生した地震災害としては、東日本大震災に次ぐ被害規模にあたります。冬季の早朝に発生したため、自宅内で就寝中の人が多かったためとも見られています。

地震の起こる仕組み

地震が発生する原因として現在有力なのは、プレートテクトニクス理論です。
これによれば、地球は内核・外核・マントル・マントルが冷やされて固まったプレート(地殻)からなっており、1年数センチのスピードでゆっくり動くマントルが、プレートとぶつかって下にもぐり込んでいます。引きずり込まれたプレートが元に戻ろうとして反発し、跳ね返った時に海溝型地震が起きると言われています。
北アメリカプレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートの3つがごく近くで接している日本列島は、地震大国だと言えます。
プレートの動きとの関連は明らかになっていませんが、日本全国には、活断層があります。阪神淡路大震災などの直下型地震は、この活断層が動くことによって起こるとされています。直下型地震は海溝型よりも規模が小さいとはいえ、地表に近いところで起こるので激しい揺れを伴います。また前震がほとんどないため、避難なども困難と言われています。

震源から放出される地震のエネルギーの大きさを数字で表したものが、Mという単位で表される「マグニチュード」です。マグニチュードが1上がると、そのエネルギーの大きさは約30倍の大きさになります。
これに対して「震度」は、ある地点の揺れの強さを人の感覚や物の動きなどから示したものです。
同じマグニチュードでも、震源が深かったり遠く離れていると震度は小さく、震源が浅かったり近いと震度は大きくなります。

なぜ家屋は倒壊したのか

阪神淡路大震災で死亡した方の約4分の3は、倒壊した家屋による圧死・窒息によるものだったと言われています。

阪神淡路大震災で被害のあった家屋は、全壊が約10万5千棟、半壊が約14万4千棟に達しました。特に被害が甚大だったのは、東灘区、灘区の阪急電鉄と阪神電鉄の間の断層に沿った地域です。中央区を中心に、商業・業務施設等の非木造建築物でも、中間階が崩れた建物が多く見られました。(神戸市消防局 阪神淡路大震災 被害の状況(物的被害)
特に老朽木造家屋の全壊、1階部分が倒壊した事例が多く、外見上の損傷がなくとも、基礎部分を含む主要講造部に致命的な損傷を受けました。倒壊は、瓦葺き屋根に土壁構造、店舗付き住宅に顕著でした。

1階・2階とも全壊した家屋は、比較的古い住宅で、建築工法の根本的な古さや築年数、木材の老朽化が主な原因だと考えられます。
1階だけ潰れた家は、比較的新しい住宅でも見られました。1階が潰れ、その上に2階が落ちてしまうような崩れ方が特徴的です。この原因は、直下型地震の強烈な突き上げによる柱抜け(最大4トンもの引き抜き力がかかったそうです)、バランスの悪い壁配置によるねじれ現象などが原因とされています。

布基礎と土台がズレてしまった家もあります。
布基礎というのは、T字型の断面をした鉄筋コンクリートによる基礎部分のことです。布基礎のT字型は、枠と底面が一体化していて安定しているため、耐震性が強いと言われていますが、この部分と家の土台が完全に離れて、横に約10センチもずれていた住宅もあったそうです。こうしたことが起こった原因は、直下型地震によって住宅が飛び上がり、その際に地盤との間にねじれが生じたこととされています。アンカーボルトのナットがなくなっていることから、12.5cm以上も飛び上がったことが判明しています。そのため、布基礎と土台のズレは約50cmにも及びました。

できてからわずか2か月という新しい家屋でも、1階部分が完全に倒壊してしまった例がありました。1階南側が18畳のリビングの間取りでしたが、間仕切り壁がほとんどなかったことが倒壊の原因とされています(一般的に、12畳以上の続き間があると建物倒壊の危険性が高くなると言われているそうです)。

「阪神・淡路大震災で改めて分かった事実」(日本木造住宅耐震補強事業者協同組合)によれば、200mほどしか離れていない2つの建物で明暗が分かれる事例がありました。
両者の違いは、ホールダウン金物の使用有無でした。ホールダウン金物を使用していなかった家は、ただでさえ道路面の壁量が不足しておらず、3階建て住宅だったために、強い柱の引き抜けが生じ、もろくも倒壊に至ってしまったとのことです。

また、阪神淡路大震災ばかりでなく、熊本地震についても、木造住宅が地震によって倒壊してしまった原因を調査したところ、その7割以上は「柱のほぞ抜け」であるということがわかっています。
木造住宅で一番多い「在来式木造軸組工法」は、基礎→土台→柱という順に組む工法です。土台にほぞ穴という穴が開けられており、柱はこのほぞ穴に上から差し込まれています。
震度3~5程度の横揺れでは、軸組によって、地震の衝撃は吸収されますが、強い直下型地震が起こると、家全体が真下から突き上げられることになります。
これにより、柱が土台のほぞ穴から抜けてしまい、家が空中に飛び上がってしまいます。阪神大震災では10 cm以上も「家が飛んだ」という報告があります。揺れが続いているために元のほぞ穴に戻らず、引っかかって土台から外れます。
すると、1階から2階につながる柱の部分に2階全体の荷重がかかって、柱が折れてしまい、1階が押し潰されてしまうのです。

被害事例の報告は地震のすさまじさを感じさせますが、地震の強さや住宅の新旧とは別に、元々の住宅のこのような構造自体の問題も多くあったのです。

生きた法律、建築基準法

建築基準法は、耐震基準をはじめ建物を建てる時の最低限の決まりを定めている法律です。
歴史を振り返ると、1950年に国内のすべての建物に耐震設計が初めて義務づけられることで、建築基準法が制定されました。その後、新潟地震(1964年)、十勝沖地震(1968年)を経て1971年に改正され、宮城県沖地震(1978年)を経て1981年6月に大きな改正があり、それ以降の耐震基準を「新耐震基準」と呼ぶようになりました。その後も改正は行われ、阪神淡路大震災(1995年)を経た2000年、新潟中越地震(2004年)を経て2005年にも改正されています。
建築基準法は、大地震のたびに改正される「生きた法律」なのです。

とくに、木造戸建て住宅については1981年、2000年の改正で、求められる耐震性能が大きくアップしています。
1981年には新耐震基準が施行され、耐力壁の量、耐力壁の倍率などが見直され、耐震性が大きく向上しました。
新耐震基準というのは、「数十年に一度程度発生する震度5程度の地震」に対して構造躯体に損傷を生じず、数百年に一度程度発生する震度6強~7程度の地震に対しては倒壊・崩壊しない程度の基準です。
新耐震基準の住宅なら、大地震発生時でも家の倒壊・崩壊は免れ、家の中にいる人の命は守られる程度の耐震性を備えていることになります。

また、2000年の改正も耐震性に大きく影響を与える内容が施行され、それまで設計者の裁量に任されていた仕様が具体的に明記されました。
まず、基礎の仕様が明記されたために、事前に地盤調査を行い、地耐力に見合った基礎形状にしなくてはならなくなりました。
また、地震時に柱の足元や頭部分が基礎や梁から引き抜かれてしまう現象を防止するためにに、使用する止め金物の種類などが具体的に明記されました。
さらに、耐力壁を確保し、壁をバランスよく配置することが必須になりました。

これらの改正に照らしてみると、新耐震基準以前の木造戸建て住宅では、特に耐力壁の量、柱・筋交い等の接合状況、基礎の仕様において耐震性が低い可能性が高いことになります。
また、2000年以前の住宅では、耐力壁の配置、柱や筋交いの接合部、基礎などに弱点がある可能性があります。

現在、新耐震基準を満たしておらず、耐震性が不十分と思われる住宅は、全国に約1,150万戸あると推計されています。耐震性に不安のある木造住宅(総合評点1.0未満)は83.5%にのぼり、新耐震基準以前の住宅では約96%が総合評点1.0を下回っているそうです。

数々の地震被害を目にすることによって、一般的にも住宅の危険性は十分認識されているものの、切迫感をもって対処がされていないのは、耐震補強に要する費用の高さ、施工の煩わしさ、そして気軽に相談できる業者がいないことが原因とみられています。

家が倒壊してしまう悲劇を避けるために

築年数の相当古い伝統的な軸組構法で建てられた家屋(特に瓦葺屋根)は、直下型地震により倒壊する可能性が高いと思われます。
とくに白アリなどで木材が腐食している場合も考えられるような場合は、建築士などの専門家に見てもらう必要があります。
比較的最近建てられた家であっても、壁量やバランス、ホールダウン金物などをチェックすべきです。
ホールダウン金物を取り付けていなかったために倒壊してしまった事例を上でも紹介しましたが、ホールダウン金物は、建物の階数に関わらず、建築基準法で取りつけることが義務づけられているものです。
木造3階建てでは、必ず建築基準法に基づく構造計算を行い、必要なホールダウン金物の強度を求めなければならないとされています。通常、3階建ての住宅では、5割程度の柱にホールダウン金物を取り付けることになります。もちろん、平屋建てや2階建てでもホールダウン金物は必要です。
しかし、ホールダウン金物が省略されている住宅はかなり多いそうです。
ホールダウン金物がまったく使用されていない場合、建物の四隅にしか取り付けていない場合、通し柱にしか取り付けていない場合、1階の柱脚にしか取り付けていない場合、2階部分や3階部分ですべて省略されている場合などが見受けられます。
そのようなことになってしまうのは、コストの削減と工期の短縮が原因です。
会社によっては、建築基準法上の義務を知らなかったり、ホールダウン金物を図面で示していなかったり、書き忘れていることもあります。
「筋交いが多いから取り付けなる必要はない」「構造用合板で連結されているから取り付けなくても大丈夫」といった説明をする会社もあります。
地震で柱が抜けて倒壊する危険性を避けるために、木造軸組工法では、正しくホールダウン金物が取り付けられているかということを確認する必要があります。

また、阪神大震災で木造建築の被害が多かった点を反省してSE工法というものが生まれています。
SE工法は、SE金物を使用した断面欠損の少ない構造によって、優れた耐震性能を実現しています。大きな揺れに対しても接合部が破損しないように工夫しており、柱・梁の仕口が在来工法のような”ほぞ欠き”を行わずに、SE金物を使用することで、断面欠損の少ない構造で柱と梁を接合しているので、木材の断面欠損が少なく、強度が高いのです。
SE工法によって建築された住宅は何万軒もありますが、欠陥となるような事故は発生しておらず、東日本大震災や熊本地震でも、SE工法で建てられた住宅は倒壊を免れています。

大地震は必ず来る

2017年現在、日本では次のような大地震の発生が懸念されています。

  • 東海地震
  • 神奈川県西部地震
  • 南海地震
  • 東南海地震
  • 南関東房総沖地震
  • 宮城県沖地震
  • 糸魚川-静岡構造線地震
  • 日本海地震
  • 神縄-国府津松田断層地震

日本には全国に1000箇所以上の活断層があるといわれています。関東平野にも見つかっていない活断層があるともいわれており、どの活断層でも内陸直下型地震と無縁とはいえません。東京近辺では、直下型の地震がいつおきてもおかしくない状況です。
30年以内に発生する震度6以上の地震は、東海地方で非常に確率が高く、四国、北海道、九州も油断できません。
地震国日本には、度重なる被災にもあきらめることなく、法隆寺五重塔などの大工たちの試行錯誤が多く残されています。
これから家を建てるのであれば、震度6に耐え得る耐震対策をとることは絶対に必要です。